消費税10%増税への与党協議でマイナンバーカードを利用する「消費税還付」案について、朝日新聞の社説は「案の利点を生かす論議を」と応援しつつ、「この機に改めて社会保障と税の一体改革の目的と議論の過程を思い出してほしい」といい、「社会保障費の増加などで財政難が深刻さを増すなか、消費税を増税し、国債発行という将来世代へのつけ回しを抑えつつ社会保障制度も支えていく、これが一体改革だ」と声高に談じます。
しかし、どうでしょうか。国債発行という将来世代へのつけ回しを抑えるといいますが、千兆円を超える今日の国債発行残高は「社会保障費の増」が招いた結果なのでしょうか、その大部分は、歴代自民党政府がアメリカや大企業の意向に沿って、無駄な大型公共事業に明け暮れてきた結果ではありませんか。
高齢化社会の中で社会保障費が増えるのは当然のことです。社説は「社会保障費の増大」を問題にしていますが日本の社会保障支出は、①公的社会支出/GDPの国際比較でみても、国際的にみて高くはありません。ヨーロッパの社会保障は決して消費税に依存しているのではなく②事業主保険料や他の税金がきちんと投入されています。
日本で社会保障財源が不足しているのは、長期にわたって賃金が抑制され、雇用の非正規化が進んだことで社会保険料(とりわけ事業主負担)が減ったことや消費税が創設された26年間で消費税による税収は282兆円になりますが、景気の悪化による税収減に加えて大企業や富裕層への減税が繰り返され、結果として消費税が法人税減税などの穴埋めになり、公費負担に見合う税収が確保されてこなかったことが挙げられます。
ベストセラーになったトマ・ピケティ氏は、資本主義における格差は働いて得る所得格差より、資産が資産を生む不労所得による格差によるものだとして、消費税増税のような低所得者ほど負担を重くする税の在り方を批判し、富裕層への資産課税などを提唱していますが、社説の主は、なぜそのような税制の在り方について言及しないのでしょうか。
今大企業の内部留保は285兆円(2013年)に達し、2014年度役員報酬1億円以上の開示企業は191社361人と役員報酬はうなぎのぼり、株高で大儲けする大株主にとって、消費税増税など痛くもかゆくもないでしょうが、月10万円、15万円で暮らす年金生活者や年収200万円以下で働くワーキングプアにとってどれほどの痛みか推して知るべきです。
消費税増税を是とする社説の目線は、一体どこにあるのか疑問です。